五月のよる

よる子と彩月の気まぐれで出来たことばと写真の出逢いたち。世界のほんとうのことを探すふたりの旅路。

52.終焉からの始まり

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(彩月)

 

連作(首)

 

(彩月)

 

おかしな家と賑やかな学校と病院の白い壁しか知らない少女がいた。

ずっと前のことのようでほんの少し前のこと。

田舎から街へ越してきた少女は

当たり前に見えていた無数の星が見えないことと

自由に走り回れず、管に繋がれたままなのが不満だった。

けれど、本は大好きだったから

写真を見て、学術書まで手を出して、

頭の良い大人ならみんな知っているはずだと思い込んで、

医者にブラックホール特異点の話をしてとせがんでは避けられていた。

 

酷いのか、しあわせなことか

恐らくしあわせではあっただろう。

病室の窓から見える自分の学校。

少女は本を時々置いて、窓の外の校舎を仰ぎ見る。

こんなに近いのに、病室から出ることも出来ない。

近くて遠い私の宇宙。

学校の先生ならわかるかしら

いつになったら学校に行けるかしら

わからないことをリストアップしてデタラメな計算をして

先生に見てもらいたかった。

彼女が宇宙に魅せられた理由を知るものは誰一人としておらず。

 

少女は少し大人になり、

長い治療で身体はボロボロ。

薬で骨は腐り潰れ、筋肉が消えていく。

大好きなカメラも持てず悲観した。

そんな時彼女が思い出したのがある博士の研究と言葉、世界観。

世の中公平であるはずがなく、私の脳は筋肉で出来てはいない。

宇宙は限りなく、それに比べれば私の変化などなんと小さな。

 

それから彼女は一歩から二歩、二歩から一歩、一歩から三歩

三歩から寝たきりへ、寝たきりから寝返りへ。

無意味なようで無意味じゃない毎日を繰り返した。

使ったのは筋肉だけじゃない。

自分の脳みそ。

くじけそうになったら近くの宇宙や遠くの宇宙を頭に描いて。

その内を知るものは誰一人としておらず。

 

彼は死んだ。

大きな力に感嘆しつつも、死後の世界はないと言い切っていた彼。

今彼はどこにいるのだろう。

もう、いないのか。それとも

終焉からの始まりへ向かっているのか。

それを知るものは誰一人としておらず。

ただ彼が存在して、とても大きなことなのにそれは小さな点でしかなかった。

それだけなのかもしれない。

それでも私は彼に祈らずにはいられない。

ありがとう、と。

心で思っても直接伝えることはできないから。

どんなに遠い存在で、今はもういなくても

私はずっとあなたの世界を追いかける旅をやめない。

終焉からの始まりか、始まりの終焉か。

知るものは誰一人としておらず。

(よる子)

 

敬愛するホーキング博士へ。

追悼の意を表します。

ありがとうございました。


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